予算・決算

◆単年度決算について

■社説2 抜本改善必要な研究投資

 文部科学省が19日に発表した科学技術白書は、科学技術における日本の研究成果の国際比較を取り上げている。これによると、発表された論文数も、特許出願数も日本は米国の3分の1程度であった。論文数では英国やドイツとほぼ同程度の量であり、特許出願数では日本が英国の2倍程度、ドイツの3割増し程度となっている。
 独創性の高い論文ほど、他の論文で引用される回数が多いと考えることができる。各国の論文が全体として何回引用されているかをみれば、それぞれの国の研究の質をみる手がかりになる。引用回数のシェアでは米国が圧倒的に多く50%弱となっており、日本は9%弱でドイツや英国より低いのが現状である。
 これらの数字をみると、米国は別格として、日本は英、独と肩を並べて善戦しているようにみえる。しかし、日本が科学技術に投入している資源量を比べると別の状況がみえてくる。1999年の研究開発投資を円換算で比較すると、米国が28兆円強、日本が16兆円強、ドイツは6兆5000億円程度、英国は3兆4000億円程度である。日本は英国の五倍程度の投資をして同程度の成果を上げていることになる。
 なぜ、日本の研究の生産性が低いのか。論文発表などの際の言葉の壁もあるかもしれない。実際に研究を行っていない人が研究者として扱われ、その経費までが研究開発投資に算定されている可能性も大きい。それにしても差が大きすぎる。
 研究は未知の道を歩くのに似ている。あるきっかけで研究が急展開し多額の研究費が必要になることもある。予定の研究費が不要になることもあるし、先延ばしして研究の準備が整ってから使いたいこともある。要するに、研究費を柔軟に使うことが必要になる。
 しかし、国の研究開発投資をみると、財政当局が財政法を建前として、研究者が使いにくい形の予算しか認めなかった。こういう状況では、巨額をつぎ込んでも、不要な研究施設や、不要なプロジェクトが増加するだけという恐れがある。聖域なき改革を目指すなら、研究開発に適した資金を用意すべきであり、それが研究の生産性を上げる道である。

[日経]2001.6.21

◆事業評価の実施主体

  5月23日,総務省は「空港整備の需要予測が甘すぎる」ことについて是正を勧告した。具体的には1989年度から98年度までの10年間に新規開港または滑走路の延長整備を行った15空港のうち過半数の9空港で利用実績が事前予測を下回り,4空港では半分にも満たなかったというものである。むろんバブル全盛期に行われた予測であって,その後のマクロ経済の低迷を予測できなかったという面はあるだろう。しかし例えばA空港とB空港を結ぶ路線の旅客数が,A空港の調査とB空港の調査で非対称である等の問題は予測技術の問題を含んでいる。

  特に問題となるのは,代替交通機関とその需要をどの程度真剣にモデル化するかである。全国交通といえども1000km以下の範囲では,鉄道・高速道路といった代替輸送機関との競合を無視しえないのは当然であるが,この種の調査で検討対象外のモードをモデル化することは,予算・期間の両面から困難であることも理解できる。そのためには,平素から全国・全モードをカバーする汎用モデルを準備すれば済むことだが,一般にコンサルタントにそのような準備作業を期待することはできない。

  技術的側面よりも調査の枠組みによる問題が大きい。最近は一定以上の公共事業には費用便益分析等による事業評価(FS)が義務付けられている。問題は事業評価の実施主体が事業主体と同じことである。事業主体は最初から実施を前提に調査を発注する傾向があり,「実施すべきでない」という結論が出ないようにコンサルタントに有形無形の圧力をかける可能性がある。結果的に評価の前提となる需要予測は事業主体寄りになりがちとなる。これは構造的問題であり,予測バイアスを解消するためには,事業評価の実施主体を会計検査院のような第三者機関に移すことが必要であろう。


社説 ■空港需要――甘い予測の背景は

 これほどいい加減だったのか、と腹立たしさを通り越してあきれる。総務省が国土交通省に対して是正を勧告した、空港整備についての行政評価である。
 勧告は「需要予測の精度のいっそうの向上、費用対効果分析の的確な実施が必要」と遠慮がちに述べている。しかし実態は「だまし」に近い。建設の結論が先にあり、それに合わせてデータをこしらえた空港があまりに多いのだ。
 鉄道など競合する交通機関を過小評価して、飛行機を利用する人数をはじく。同じ地域内に別の空港があるのに、利用者の重複をきちんと計算しない。こうして、需要を水増しした予測ができあがる。
 費用対効果の分析でも、利用者の便益を大きく見せるために操作が施される。建設中の中部国際空港では、旅客が北米に行くのに成田空港や関西空港ではなく、新潟経由で韓国・ソウル空港へ飛ぶ例まで引いて、便利さを強調しているという。
 勧告は、国土交通省や地方自治体が、需要予測に用いた基礎データや手法の記録を保存していないことも問題視している。事後に外部から検証ができないまま、都合のよい結論だけが独り歩きする。
 お手盛り予測が崩れるのは当然だ。89年度から10年間に新設または滑走路を延長して業務を始めた15空港のうち、9空港は利用実績が予測を下回り、うち4空港は予測の半分以下の実績だった。
 国土交通省は、この勧告をまじめに受け止め、いま可能な手立てを講じなければならない。国がつくって管理する国際空港から地方空港まで、未着工や建設途上の空港の需要予測と費用対効果分析をやり直して公表することである。
 建設の是非を問う住民投票条例案が近く県議会に提出される静岡空港や、工事を続けることに疑問の声もある関西空港、神戸空港をその対象にするのは当然だ。
 空港整備は、国の長期計画に基づき、着陸料や航空機燃料税を特定財源とする特別会計で行われる。特別会計の規模は昨年度で約5000億円。道路整備に比べて小さいが、仕組みは同じだ。
 空港が足りない時代は意味があったが、やがて既得権益維持が目的になり、事業が必要かどうかの検証は二の次になった。その特定財源は世界一高い着陸料や、国際的にほとんど例がない燃料税に支えられ、乗客に負担のつけが回るのだ。
 今の国会に提出されている政策評価法案では、公共事業も事前・事後の評価を、その過程も含めて公表することになっている。さすがにデータを捨てることなどはできなくなるだろうが、「お手盛り評価」には限界がある。
 小泉内閣は道路特定財源の見直しに意欲を見せる。公共事業の需要予測の甘さは、道路にも橋にも共通する。せっかくの機会だ、この病根をえぐってもらいたい。
[朝日]2001.5.25

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